皆さま、こんにちは!本日のブログはM.Mがお届けします。

八月に入り、青森の街はねぶたの熱気に包まれています。囃子の音が遠くから聞こえてくるだけで落ち着かなくなると聞き不思議に思っていましたが、実際参加してみるとなるほどわかる気がします。汗をぬぐいながら飲む冷たい一杯も、この時期ならではの格別さでしょう。

——などと書いておきながらですが、本日はあたたかいコーヒーの話をさせてください。しかも、山の上で飲むコーヒーの話です。

私はそれまで、コーヒーというものを単なる嗜好品としてなんとなくあるもの、と思っていました。

香りだの、産地だの、浅煎りだの深煎りだの。あれは要するに、こだわりを語りたい方々の趣味の世界であって、私のような人間には縁がないものだと思っていたのです。眠気覚ましに流し込む黒い液体。それ以上でも以下でもない、と。

その考えが、たった一杯でひっくり返されました。しかも、よりによって山の上で。

山頂で、道具を取り出す

数年前の秋、山に登ったときのことです。

汗だくで頂上にたどりつき、荷を下ろしてへたり込んでおりましたら、同行者の方がおもむろにザックをごそごそやり始めました。何が出てくるのかと思えば、小さなケトルに、折りたたみのコンロにコーヒードリッパー、そして密閉袋に入った挽きたての豆。

私など水一本の重さを苦々しく思いながら登ってきたというのに、この方はコーヒー一式を担いできたわけです。物好きにもほどがある。

ところが、です。

粉にお湯が落ちた瞬間、あたりの空気がまるごと変わりました。冷たい風の中に、あの香りがふうっと立ちのぼっていくのです。あんなにはっきりと「いい匂いだ」と思ったことが、これまであったでしょうか。

差し出されたシェラカップを両手で包み、温かさを感じながらひと口飲むと、体の芯にじんわりと染み渡ります。

こだわりを語りたい方々の趣味の世界だなどと思っていた私に、そのこだわりをふと理解してしまう瞬間が訪れました。

そもそも、山生まれでした

その一杯が忘れられず、一時は手引きのミルにハマりました。さらには、少しばかりコーヒーの来歴を調べてみたのですが、これが面白いのです。

コーヒーのふるさとは、エチオピアの高原地帯だといいます。標高千数百メートルの、山あいです。

有名なのは、ヤギ飼いの少年カルディの伝説でしょうか。放しておいたヤギが赤い実を食べて元気に跳ねまわっているのを見て、その実の力に気づいた——なんとも牧歌的な、いかにも山の話。

やがて豆は紅海を渡ってイエメンへ渡り、修行僧たちが夜通しの祈りの眠気覚ましに飲んだと伝わります。積み出し港の名が、今も「モカ」として残っているのはご存じの通りです。そこからトルコへ、ヨーロッパへ、はるばる日本へ。

時を経てずいぶんと世界共通語になりましたが、出発点はあくまで山でした。

つまり私は、コーヒーが生まれた場所とよく似た高さで、飲んだコーヒーで覚醒したことになります。

高いところで、ゆっくり実る

さらに感心したのは、コーヒーの木が今でも高地を好むという話です。

標高が高い産地は、昼と夜の寒暖差が大きい。その厳しさの中で、豆はゆっくりと時間をかけて実ります。そうしてできた豆ほど味が締まり、香りも酸味も豊かになるのだそうです。産地によっては、標高そのものが等級として扱われるほどだといいます。

ぬくぬくと楽をして早く育ったものより、寒暖の差に耐えてゆっくり育ったものの方がいい。

コーヒー豆も人間をおんなじなのかもしれません。

 

じっくり時間をかける、ということ

山でコーヒーを淹れるのは、とにかく面倒です。

水を担ぎ上げ、風をよけて火をつけ、湯が沸くのをじっと待つ。粉を蒸らすのに三十秒。街のコンビニなら十秒で買えるものが、山の上では十五分かかります。

ですが、その十五分がまるごとそのふくよかな味になっているのだと、今の私は思わされてしまいます。

登ってきた道のり、引いていく汗、眼下に広がる景色、湯気の向こうで揺れる稜線。あれを全部溶かし込んだからこそ、あの一杯はあんなに美味しかった。豆のせいでも、腕のせいでもありませんでした。

考えてみればコーヒーという飲みものは、最初からそういう性分らしいのです。山の斜面でゆっくり実り、遠い海を運ばれ、湯が落ちるのを待って、ようやく一杯になる。

待たされることを、これほど気持ちよく引き受けられる相手も、そう多くはありません。

 

晩秋の頃、芳しい一杯に出会うために

平地で過ごす日常時間が長くなると、山頂での一杯が遠い昔の記憶となりますが、今回このブログを書かせていただくにあたり、懐かしくまたその感動の再会を味わいたくなりました。

というわけで、次に山へ登るときは、私がケトルを担ぎたいと思います。汗だくの日々を過ぎて、晩秋の頃、また山頂の芳しい一杯に出会うため。

みなさまの一日にも、ほっと一息つける時間がありますように。

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