我らが青森市でも、運動公園の周辺や市街地近くで「本日も熊の目撃情報あり」の看板が乱立する始末。
朝のランニングに出かけようものなら、熊と鉢合わせするリスクまで計算しなければならない時代が到来しました。
まったく、こちらは「おはようございます」と挨拶したいだけなのに、向こうは「いただきます」と言いかねない状況です。
思えば熊と日本人の関係も、様変わりしたものです。
かつて東北を中心に、平安時代から続く「マタギ」と呼ばれる熊撃ちたちがいました。
彼らにとって熊は単なる獲物ではなく、「山の神からの授かりもの」であり、
決して「撃ち取った」とは言わず「授かった」と表現したのです。
なんとも奥ゆかしい。現代なら「本日のラッキーアイテム:熊」といったところでしょうか。
熊の胆嚢(熊胆)は「金一匁、熊の胆一匁」と言われるほど高価で万能薬として珍重され、
肉、毛皮、内臓、骨、血液、脂まで余すところなく利用されました。
大きな胆嚢は一粒で70万円にもなり、2・3頭獲れば半年暮らせたというのですから、まさに「歩く宝の山」。
二日酔いにも効き、心臓の穴まで塞がったという伝説もあるそうで、現代の栄養ドリンクも真っ青です。
マタギたちは山の神(醜い女性とされる)への信仰を持ち、山では「里言葉」ではなく独自の「マタギ言葉」を使い、
妻や恋人の話は山の神の嫉妬を買うのでご法度だったそうで、なんとも面倒くさい女神様ですが、
命がけの狩猟をする以上、神様のご機嫌取りは必須だったのでしょう。
ところが現代はどうでしょう。
2025年は統計開始以来、過去最悪のペースで熊被害が発生しており、
4月から9月だけで全国で108人が被害に遭い、死亡者は7人に達しました。
原因の一つは、熊の個体数が過去30年間で2倍以上に増加したことだそうで、保護政策の成果が出すぎて、
今度は熊が「人間、ちょっと増えすぎじゃない?」と思っているかもしれません。完全に立場逆転です。
さらに問題なのは、本来は植物食中心だったツキノワグマが、シカの増加とともに肉食傾向を強めていることです。
最近では生きたシカを襲う様子まで撮影され、世界初の知見として学術誌に掲載されました。
学習能力の高い熊は、罠の場所を記憶し、そこで待ち伏せまでするようになっているというから、
もはやITスキルの習得より早いかもしれません。
我が社のAzure研修より賢いのでは、と不安になります。
青森市でも10月7日、駒込地区でクリ拾い中の男性が襲われる被害が発生しました。
クリ拾いやキノコ採りという秋の風物詩が、まさかの命がけのアクティビティになるとは。
マタギが「山の神から授かった」と言っていた時代から、熊が「人間を襲う」時代へ。溜息しか出ません。
かつて熊は山の神の使いとして畏敬の念を持って迎えられ、命の恵みとして感謝されていたのに、
現代の熊たちは、その歴史的文脈をすっかり忘れて、人間の生活圏に堂々と出張してくるわけです。
「昔はお前たちが俺たちを拝んでいたのに」とでも思っているのでしょうか。
私たちIT業界も、もはや他人事ではありません。
次のイノベーションは「Azure熊出没予測AI」や「Copilot熊対策アシスタント」でしょうか。
笑っていられるのも今のうちかもしれません。
2025年の出没件数は前年の2倍以上。
山へ行く際は鈴を鳴らし、複数人で行動し、早朝と夕方は特に注意が必要です。
マタギが「山の神からの授かりもの」として大切にしていた熊と、現代の我々が「招かざる客」として警戒する熊。
歴史は繰り返すと言いますが、まさか人間と熊の力関係が逆転するとは、
平安時代のマタギも予想していなかったでしょう。
共存の道を模索しながら、せめて朝の散歩くらいは安心して楽しみたいものです。